音楽系のサクセスストーリーだけれども、それだけじゃない。斬新な時代設定と最高に魅力的なキャラクターデザイン、それに加えて、世の中の社会問題に向き合った作品。
主な登場人物
キャロル&チューズデイ
難民キャンプで育った娘と、大統領候補の娘のユニット。AIで楽曲を作るのが当たり前の時代に、自分たちで楽曲を作って演奏している。
キャロル
17歳。地球生まれ。孤児。両親のことをほとんど覚えていない。難民キャンプで育ち、今は火星で生活している。nordのキーボードを演奏する。
チューズデイ
17歳。最近まで引きこもりだった。母が政治家で大統領選に立候補している。Gibsonのアコギを演奏する。
アンジェラ
16歳。人気モデルから歌手への転身を目指している。
タオ
音楽プロデューサー。AIで楽曲を作り、アンジェラに提供している。タオの会社の社員120人は、すべてAIらしい。
楽器のタイアップ
Gibsonとnordの楽器がそのまま作中に出てくる。nordはYoubube等のライブ演奏で使われているのをよく見かける。
Neumannは、有名な高級マイクメーカーらしい。
時代設定
キャロル&チューズデイは、地球から火星への移民が進んでいる時代の話。ただし、通常のシーンでは火星や未来を意識させることが少ない。火星の話なのに現代風なのが、逆に新鮮な感じがする。「火星じゃ雪はふらない」「今日は地球がよく見える」といった登場人物の会話によって、そういえば火星の話だったなと思い出す。場所が変わっても、人間の日常生活に変わりはないということかもしれない。
描かれている社会問題
AI
AIがあらゆる所で利用されるようになっている。そのため、人間のバイト求人が少なく、あるのはAIペットの散歩や看板娘系のバイトなど。ボディガードや警備員もAIが利用されている。作中の「(AIを使って)人の心を操るという点では、音楽と政治も同じ」という言葉が印象的。
ジェンダー
火星に長年住むと、放射線の影響で両性具有(アンドロギュヌス)になるという設定になっている。そのため、アンジェラのマネージメントを行う母親も、昔は男性的な容姿だったが、現在は中性的な容姿になっている。
政治と世論操作
チューズデイの母親は、大統領選に勝つために、選挙屋の勧めで「不法移民の火星外への撤去、火星が一つになる」をスローガンとして掲げる。実現できるかどうかは関係なく、注目される公約を出し、選挙で勝つには手段を選ばない。AIによるコンサルティングの結果と言えば、皆が納得するという雰囲気の世の中。自分に有利な方向に世論を導くために、テロを起こすといったシーンもある。
移民問題
チューズデイの母親が大統領になると、文化を取り締まる法案が出される可能性があることから、次第に表現が自粛され、世の中の空気が変わっていく。それによって、移民管理局による、適当な理由をつけた見せしめの逮捕が多発する。「犯罪者の作った曲なんか配信停止にしろ」は、まさに実社会で起こっていること。「闇の中で息を潜め合って生きていかなければならないような時代になろうとしている」という作中の言葉も、今の世の中そのまま。警察による暴力シーンも、香港の出来事を思い出させる。
火星を舞台にした今の社会の物語
物語は、世の中は変えることができるという希望を残したハッピーエンドで終わる。
”Will be continued … in your mind.”
しかし、大統領候補のチューズデイの母親が最後に下す決断は、現実だとあり得るのだろうか?「検察局長は私の友人だ」と言って逮捕を免れようとする人は、現実では逮捕されるのだろうか?と、いろいろと考えてしまう。
銀河のマーメード
第9話「Dancing Queen」の作中で、マーメイドシスターズが歌う「銀河のマーメード」の歌詞が本当にひどい、ひどすぎる。音楽を聴いて久しぶりに笑った。